2026年_Vol.2

特集:「紙で十分」と思っている方へ 不動産で電子契約を利用するメリット・デメリットと現場の声を紹介

不動産業界でもDX(デジタル技術で仕事の進め方を変えること)という言葉をよく耳にします。ただDXといっても、一度にすべてをデジタル化する必要はありません。郵送や押印、返送待ちのような時間のかかる事務を、一つずつ置き換える進め方もあります。
こうした事務を置き換える手段の一つが「電子契約」です。すべての取引を電子化しなくても、使える場面から取り入れられます。本記事では、電子契約で契約の事務がどう変わるかを、不便な点や実際に使っている人の声も交えて解説します。ぜひ業務を見直す際の参考にしてください。

不動産の電子契約とは?IT重説との違いも解説

不動産の電子契約とは、契約書などを印刷せずデータで送り、電子契約システム上で署名をもらう方法です。2022年5月18日の改正宅建業法の施行で、書面を電子で交付できるようになってから4年半近くが経ちます。

電子化の対象は、媒介契約書、重要事項説明書、賃貸借契約書・売買契約書、レインズの登録証の4種類です。紙と電子では、契約までの流れが以下のとおり変わります。

  • 紙:印刷→自社で押印→郵送か手渡し→お客様が押印して返送→キャビネット等で保管
  • 電子:データをメール等で送る→お客様がパソコン上で電子署名の操作を行う→署名済みのデータが届く→データで保存

電子交付には事前にお客様の承諾と、書き換えられていないと確認できる措置(電子署名・タイムスタンプ)が必要です。国土交通省は、こうした措置を施せるシステムとして「電子契約システム」を例に挙げています。

なお、テレビ会議などで重要事項を説明する「IT重説」は、書類の電子化とは違って片方だけ使うことも、組み合わせることもできます。同省のハンディガイドは、使い分けの例を2つ示しています。

「遠方だから店舗に行くのは大変だけど契約書は紙で見たい」というお客様には、書類を紙で郵送し、説明はオンラインで行うことも可能です。もし「書面は紙よりデータで保存しておきたい」というお客様なら、書類は電子で送って説明は対面で行えます。

【企業・個人】不動産における電子契約の利用状況

 

ここでは、不動産会社の導入状況と、契約するお客様の利用経験を、調査結果をもとに紹介します。


不動産会社の導入状況

不動産流通推進センターの2022年7月の調査では、電子契約・電子署名システムを「導入している」会社は13.8%でした。従業員30人以上の会社では23.5%ですが、29人以下の会社はどの規模も5%未満にとどまっています。

調査は法改正の施行直後のものです。ただ、全宅連とGMOグローバルサイン・HDによる2025年の共同調査でも、導入する予定がない会社の6割超が「紙の契約で十分」(63.1%)や「顧客から求められることがない」(60.8%)と答えています。この傾向は2023年の前回調査から変わっておらず、地域の不動産会社の多くはまだ紙の契約が中心です。


契約するお客様の利用経験

全宅連の「2025年住宅居住白書」(全国の20〜65歳5,000人が回答)では、不動産取引で電子契約を使ったことがある人は15.0%でした。20代は32.6%(約3人に1人)、30代は21.0%です。この結果を受けて、全宅連は「特に若年層が関わる頻度の多い賃貸借において浸透が進んでいる」と分析しています。

また、すでに電子契約で取引した会社に聞くと、82.9%がお客様の反応を「おおむね好評だった」と回答しています(前述の共同調査。2023年の前回71.2%から11.7ポイント上昇)。

不動産における電子契約のメリット

前述の共同調査で、電子契約を導入した会社に「導入して得られた効果」を聞いたところ、回答の多かった上位3つは以下のとおりとなります。

導入して得られた効果回答した会社の割合
印紙税のコスト削減68.0%
お客様との日程調整がしやすくなった59.0%
書類の送付が省力化され、業務が効率化した57.8%

このほか、保管・管理のしやすさなども過半数の会社が挙げています。ここからは、印紙税、来店や郵送のやり取り、書類の保管の3つを見ていきましょう。


印紙税がかからない

売買契約書には価格に応じた印紙税がかかり、3,000万円なら軽減税率で1通1万円(本来2万円)、売主・買主の2通で2万円です。国税庁は電子データ(電磁的記録)を課税される「文書」に含めないとしており、電子契約なら印紙は不要です。

売買価格ごとの印紙税額は、以下のとおりとなります。

売買価格紙の契約書(1通あたり)電子契約
500万円超〜1,000万円以下5,000円(本則1万円)0円
1,000万円超〜5,000万円以下1万円(本則2万円)0円
5,000万円超〜1億円以下3万円(本則6万円)0円
1億円超〜5億円以下6万円(本則10万円)0円

※紙の契約書の税額は、2027年3月31日までに作成されたものに適用される軽減税率

仲介の取引では、印紙税を負担するのは売主と買主で、仲介会社の負担はありません。ただ、お客様に電子契約を提案するときに金額で伝えやすく、自社が売主の取引なら金銭的なメリットがあります。

なお、電子契約のデータを確認や保存のために印刷しただけの控えは、契約書の写しと同じ扱いで、印紙税はかかりません。ただし、電子で結んだあとに紙の契約書を別に作り、売主・買主が署名・押印して取り交わすと、その紙には印紙が必要です。一方で、建物の賃貸借契約書は、もともと印紙税の対象外です。


お客様が店舗に来なくても契約できる

紙の契約では、お客様に来店してもらうか、郵送・押印・返送を待つ必要があります。一方、電子契約ならお客様は自宅や職場で確認して署名できるため、お互いの来店日を合わせる必要がありません。

共同調査でも、導入を検討中の会社が挙げた理由で最も多かったのは「顧客が来店しなくても契約可能にしたい」で、75.8%にのぼりました。店舗から離れた遠方のお客様や、仕事などで平日に時間を取りにくいお客様とも、日程調整に悩まずに契約を進めやすくなります。


契約書類を探す手間と保管場所が減らせる

電子契約で取り交わした書類は、すべてデータで保存されます。そのため、紙のファイルを棚から探したり、社内に保管場所を確保したりする必要がありません。過去の契約内容を見返したいときも、保管場所へ探しに行くこともなく、パソコンの画面上で必要な書類をすぐに確認できます。

また、やり取りの記録がシステム上に残る点も実務で役立ちます。書類を「いつ送り」「いつ署名されたか」を確認できるシステムなら、手続きの状況がひと目で分かります。その結果「書類をまだ受け取っていない」などといった、お客様との行き違いも防ぎやすくなります。

不動産における電子契約のデメリットと対処法

電子契約には、紙の契約にはなかった手間や決まりもあります。ここでは、代表的な3つの点と対処法を紹介します。


慣れるまで不安に感じることがある

共同調査では、導入予定のない会社の26.8%が「電子契約を使いこなせる担当者の不在」を理由に挙げました。2023年の37.4%からは減っているものの、導入をためらう理由の一つになっています。

操作などに不安がある企業は、お客様に送る前に社内の担当者どうしで書類を送り合い、署名までの手順を一度試しておくのがおすすめです。一度操作しておけば、お客様に聞かれたときにも画面に沿って案内できます。


お客様の承諾が必要

電子交付には、事前にお客様の承諾が要ります。承諾は紙のほか、メールやLINEなどのSNSでも受け取れます。ただし、国土交通省のFAQによると、承諾の記録を書面に出力できる方法に限られる点に注意が必要です。

法律上、相手方が書面としてきれいに印刷・出力できる形式(PDF等)で提供・記録を残す必要があるため、単なる画面キャプチャ(スクリーンショット)での代用は認められていません

また、同省のハンディガイドによると、スマートフォンでは、書類が書き換えられていないことを確かめる表示が出ない場合があります。必要に応じて、書類はパソコンで開いてもらうよう事前にお願いしておくと安心です。

メールを使っていない方や、電子での手続きに不安がある方もいます。紙を希望するお客様とは、これまでどおり紙で取引すれば問題ありません。

一度承諾を頂いた後に「やっぱり紙で」と言われても、簡単に切り替えられます。その際は、紙に切り替えたいという申し出も、メールなど記録を書面に出力できる形で受け取っておくのが望ましいとされています。


取引に関わる全員が電子に対応する必要がある

国土交通省のハンディガイドは、書面の電子化のデメリットとして「原則取引に関わる全員が電子書面を利用する必要がある」ことを挙げています。売主・買主や一緒に仲介する会社のうち、誰かが紙を希望すれば、その取引は原則として紙で進めることになります。

特に売買では、売主・買主・仲介会社の三者が関わるうえ、電子で進めることに売主と買主の双方の同意が要ります。ある大手仲介会社も、こうした事情から売買仲介では電子契約が広がりにくかったと説明しています。

それでも同社は、2026年4月から全国の売買仲介店舗で電子契約を始めました。売主から依頼を受けた会社が電子で進める売買に、買主を紹介する側として加わる場面は、地域の会社にも出てくると考えられます。

その場合も、自社のお客様から承諾を得て署名までを案内するほか、紙と同じく自社の宅建士の記名が必要です。

取引が始まったら早めに、全員が電子で進められるかを相手の会社と確かめておきましょう。あわせて、どの会社がどのお客様から承諾を得るかも決めておくと、手続きが滞りません。

電子契約を実際に使った人の声を紹介

ここでは、東京都目黒区で賃貸仲介の客付けを行っている不動産会社の代表者に、業者と借りる側の両方の立場で電子契約を使った感想をうかがいました。


客付け業者として:契約の事務は何が変わったか

この会社では、電子契約を使うようになって書類の郵送が要らなくなりました。遠方のお客様と紙の書類を郵送でやり取りすると、押印漏れのトラブルが起きることがあります。郵送そのものがなくなったことで、こうしたトラブルを避けられるようになったそうです。

また、契約日の調整がオンラインで済むようになった点も大きな変化です。お客様に示せる候補日が多くなることで、日程を調整しやすくなったといいます。なお、この会社のスタッフは30代前半以下の若い人ばかりで、電子にとても慣れているとのことです。

ただ、お客様も同じように慣れているとは限りません。電子契約で結ぶ物件を借りることになった50代後半のご夫婦の仲介では、契約が難航しかけたそうです。ご夫婦はスマートフォンでメールができる程度で、電子サインも電子契約も初めてでした。画面の文字が小さく、書類を読むのにも苦労したといいます。

来社してもらい、目の前で操作を教えながら契約することも考えましたが、お二人の都合がつきませんでした。そこでご夫婦の娘さんにオンラインで間に入ってもらい、手伝ってもらいながら説明を終えて、無事に契約に至っています。

代表者は、若い世代には使いやすい方式でも、パソコンやスマートフォンを使い慣れていない方には難しく感じられる部分があると話します。ケースによっては「紙のほうが楽だった」となることもあり得るそうです。


借りる側として:お客様の立場で感じたこと

この不動産会社の代表者は、自分が部屋を借りるときにも電子契約を使った経験がありました。お客様の立場で使ってみて、契約書の控えを電子で保存しておけるのがよいと感じたそうです。

さらにこの方には、申し込みから契約開始までの期間がかなり短く、契約のために店舗へ行く時間を取るのは現実的に難しかったという事情もありました。そのため、手続きが全部オンラインで済むのも非常に助かったと振り返っています。

「ハトサポサイン」なら月々の基本料金なしで始められる

郵送や日程調整の手間が減るといったメリットは、どの電子契約システムを使っても共通して得られます。宅建協会の会員であれば、全宅連が運営する会員業務支援サイト「ハトサポ」の電子契約「ハトサポサイン」を利用することが可能です。

「ハトサポWeb書式作成システム」を利用すれば、作成した重要事項説明書や契約書を、そのまま電子署名の手続きに回せます。またハトサポでは、電子契約やIT重説に関する書式もダウンロード可能です。

電子契約サービスを個別に契約すると、月々の基本料金がかかる場合があります。一方、ハトサポサインは月額基本料金なしで、使った分だけ支払う料金体系です。2026年10月時点の料金は、以下のとおりとなります。

  • 初期費用:2,200円(税込)
  • 月額基本料金:無料
  • 利用料:書類を1回送るごとにチケット1枚、1枚275円(税込)、チケットは10枚以上をまとめて前払い(払い戻し不可)

※最新の料金は、協会または全宅連の案内でご確認ください。

全宅連は、ハトサポを会員の業務のDX化を支える1つの手段と位置付けています。とはいえ、すべての契約を一度に電子へ切り替える必要はありません。郵送や押印といったやり取りを一つずつ置き換えていけば、浮いた時間を次のお客様への対応に回せます。

まずはハトサポに登録(登録済みならログイン)し、遠方で来店が難しいお客様との契約など、使いやすい場面から試してみてください。


執筆者:西山雄介(宅地建物取引士・マンション管理士)

新卒でマンションデベロッパーに入社し、販売・仲介営業やマンション管理など、不動産業界に約15年従事。管理会社在籍時には、電子契約の導入プロジェクトにも携わる。現場目線のリアルな知識と法規への理解を強みに、現在は不動産・住まい分野を中心とした記事の執筆・編集を手がけている。

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